新型コロナウイルスのPCR検査の精度(陽性的中率)や検査の対象者について、ネットニュースやワイドショーでたびたび話題になっていたと思いますが、これは、検査の感度や特異度が同じでも、有病率(事前確率)によって検査の精度が変わるからです。
先日、厚労省から「抗体保有率」の調査結果が出ました。
抗体保有率が分かれば、有病率を推測することができるため、今回、具体的な数値を当てはめて実際の精度(陽性的中率)を調べてみたいと思います。
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検査の精度について
どんなスクリーニング検査も、陽性が出たからといって本当に陽性とは限りません。
まずは、検査の精度はどのように決まるのか見ていきたいと思います。
まず、検査には、感度、特異度というものがあります。
感度
その病気に罹っている場合、検査で正しく陽性となる確率
特異度
その病気に罹っていない場合、検査で正しく陰性となる確率
つまり、
感度は、「実際に病気にかかっている人が検査でちゃんと陽性となる確率」です。
特異度は、「実際に病気にかかっていない人が検査でちゃんと陰性となる確率」です。
感度は、「実際に病気にかかっている人が検査でちゃんと陽性となる確率」です。
特異度は、「実際に病気にかかっていない人が検査でちゃんと陰性となる確率」です。
PCR検査の感度については、概ね70%と言われてますが、インフルエンザの検査と同じように、感染からの時期(ウイルスの増殖状態)により変わります。
ウイルス増殖前やピークを過ぎたあとは感度が低くなります。
なお、特異度は99%前後です。
陽性的中率、陰性的中率は、検査をおこなって出た結果が、どの程度正しいかを示すものです。
陽性的中率(検査後有病率、陽性事後確率)
検査が陽性になった場合に、本当にその病気に罹っている確率
陰性的中率(1−陰性事後確率)
検査が陰性になった場合、本当にその病気に罹っていない確率
図の下側にある計算式で示すように、陽性的中率(検査後有病率)は検査前有病率(事前確率)の値(どのくらい流行っているか)に影響を受けます。
つまり、感度・特異度が同じでも検査前有病率(事前確率)が低いと、検査後有病率(陽性的中率)も低くなることが分かります。
例を挙げると…
「感度:99.9%」、「特異度:99.9%」の検査があるとします。
一方で、事前確率が「0.1%」と低い場合は、陽性的中率は50%にまで低下してしまいます。
つまり、検査をして陽性と出ても2人に1人は本当は陰性であり、半分が間違った結果が出てしまっているというレベルです。
すなわち、感度・特異度が同じでも、有病率(事前確率)が低いほど、陽性的中率が低くなるという特徴があります。
逆に事前確率(有病率)が高いとどうかについて見てみます。
インフルエンザを例にして考えてみます。
つまり、検査で陽性または陰性になった場合、その結果を本当のものだと信頼できる可能性が高いです。
一方でクラスの50%が感染しているような大流行している場合、陰性的中率は78.5%まで低下しました。
つまり、検査で陰性になった人のうち、4人に1人が実は陽性ということです。
このように、どのような検査も感度・特異度が同じでも有病率(事前確率)が高いと陰性的中率が低くなるという特徴があります。
そのため、実際の診察においては、こういった検査の特徴を加味して、流行期には問診により「自分の周囲でインフルが流行っているか」ということを確認し、もしそうであれば、検査をせずとも症状から診断をつけるということがあるようです。
こちらは、感度99.1%、特異度99.5%の一定のときに、陽性的中率および陰性的中率がどのように変わるかを示したものです。
有病率(事前確率)が低いほど、陽性的中率は低くなり、有病率が高いほど、陰性的中率が低くなるのが分かります。
それでは、新型コロナウイルスについて見ていきたいと思います。
先日、厚労省が発表した「抗体保有率」は、過去にどのくらいの割合の人が新型コロナウイルスに感染したことがあるかということを表します。
この「抗体保有率」から実際の有病者数を推定しました。
結局、新型コロナウイルスのPCR検査の精度は?
有病率(事前確率)が分かれば、陽性的中率を算出できます。
今回は、東京都と宮城県の場合で考えます。
過去5か月間のPCR検査の陽性的中率は、東京都の場合、6.5%、宮城県の場合、2.1%でした。
つまり、PCR検査をして陽性となっても、本当の陽性者は1割にも満たないくらいで、9割以上が陰性なのに隔離を余儀なくされるということになります。
加えて、今回の有病率は緊急事態宣言の頃の有病者数を含めた数値ですが、6月の短期間の有病率(事前確率)はさらに低いと考えられるため、現時点のPCR検査の陽性的中率はこの数値よりもさらに低くなることが考えられます。
このようなことが、有病率が低い時点では、手あたり次第検査を行うのではなく、事前確率が高い者(流行地域からの帰国者や濃厚接触者等)を中心にPCR検査を行う方が妥当であると言われていた理由の一つです。
追記(2020/7/5):最近の研究で、抗体が2~3か月で減少する例が報告されており、感染したことがある人でも抗体検査で陰性となることがあるようです。そのため、実際の有病率はもう少し高い可能性もあります。
日本においても、感染者を追跡調査し、抗体の維持率について調査が行われれば、さらに正確な有病率が割り出せるかと思います。
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